2008年07月28日
コンテンツ番号2199
作曲家・成田為三の実像を学ぶ
(2008.7.28)
講師で為三研究家の後藤惣一郎さん(28日)
北秋田市の公民館講座「先人に学ぶ」が7月28日(月)、浜辺の歌音楽館で開かれ、約50人の受講生が、「浜辺の歌」の作曲家として知られている成田為三をテーマとした講演に耳を傾けました。
講師は、同館の終身名誉館長で為三研究の第一人者でもある作曲家の後藤惣一郎さん(86)=栄字前綱=。講演は、為三の生涯や作曲家としての為三、為三を紹介している浜辺の歌音楽館などについて3回にわたって学ぶもので、第1回目のこの日は、後藤さんが、研究成果をもとに為三の生い立ちと人物について語りました。
成田為三は明治26年、旧米内沢村生まれ。大正2年、秋田県師範学校を卒業、毛馬内尋常高等小学校教師を務めた後、同3年に現在の東京芸術大学の前身である東京音楽学校に入学します。在学中、在野の山田耕筰に作曲を師事。大正4、5年頃「はまべ(浜辺の歌)」を作曲します。同6年に同校卒業後は佐賀県師範学校に赴任。翌年同校辞任、東京赤坂小学校に赴任。
大正8年『赤い鳥』に「かなりや」を発表、一躍有名になります。以後、『赤い鳥』の専属作曲家となり、大正10年にはドイツ留学、ロバート・カーン教授のもとで作曲法を学びます。同14年帰国。同15年、鈴木文子と結婚。その後、川村女学院講師、東洋音楽学校講師を経て同15年、国立音楽学校教授に就任。同20年4月には空襲で自宅が焼失、多くの作品を失います。同年10月、脳溢血のため51歳で急逝し、遺骨が米内沢の龍淵寺に埋葬されました。
講演では、はじめに後藤さんが、「『浜辺の歌』は、かつて昭和天皇がアメリカを訪問した際、当時のフォード大統領が歓迎の曲として演奏させたことがあるように、この曲は世界的にも日本を代表する曲として知られている。もちろん素晴らしい曲だが、成田為三といえば『浜辺の歌』の作曲家、また歌曲の作曲家と一辺倒に思われがち。しかし、本来は和声学や対位法など音楽理論に長け、オーケストラ曲も作曲した本格的な作曲家であった」などと述べ、為三を正しく認識してほしいと求めました。
また為三を追うことになるきっかけの一つが、秋田県初の音楽指導主事に就任した際、日本の音楽界の巨人・山田耕筰氏にあいさつに行き、その場で「秋田の人たちはもっと成田為三を大切にしないと。対位法にかけては彼の右に出るものはいないよ」と話しかけられたことだったと紹介し、為三の幼少時代から語り始めました。
後藤さんは、「為三や浜辺の歌を紹介している資料は誤っているものが多い」と指摘、幼少時代、役場職員だった父親からヴァイオリンを買い与えられていた、と紹介している資料についても、「当時の役場職員の俸給を考えるとヴァイオリンを買う余裕があったとは思えない」、また、「為三家の兄・憲生が、為三がヴァイオリンを弾いていたのを見たことはない、と語っていた」ことなどから、「音楽の道を目指すことになったのは秋田県師範に入学後で、それ以前は学業成績は優秀だったものの、このときままだ音楽的素養に秀でていたわけではなかった」と説明していました。
為三の性格については、ドイツ留学時代も毎月2日になると決まって米内沢の実家に5円が送金されていたこと、妻の文子さんとは買い物にも必ず付き添い、荷物を持ってあげていたことなどから、「親孝行で、妻思い、お金を貸してあげても返還には寛容であったなど、人の面倒見がよかった人」と語っていました。
代表曲の一つ「浜辺の歌」は、「もともと『はまべ』という題名だったのが出版社の都合のため今の名称で世に広まった。林古渓の詞についても、4番まであったものが、なぜか3番までになっている。なおかつ3番は古渓の作ではない。最初に掲載されたセノオ音楽出版の楽譜の表紙には竹久夢二のイラストが描かれているが、このイラストのイメージは3番の歌詞から取ったもので、そもそも古渓や為三の意図とはまったく異なるもの。さらに、仮名書きだった歌詞の一部「しのばるる」は意味からは「偲ばるる」のはずだが、「忍ばるる」と表記されてしまった。また「風よ音よ」が「風の音よ」として定着してしまっている」と、オリジナルから変わってしまったことの無念を述べていました。
後藤さんは、「このような背景から、この音楽館の名称も当初は『成田為三顕彰会館』とすることを提案したが、歌の名称としてすでに定着しており通りのよい現在の名称になった。しかし、浜辺の歌の作曲家といった一枚看板の為三ではなく、日本にオーケストラがなかった時代、作曲法や楽理を基礎から学び、本格的に作曲を行っていた為三の業績と生涯を正しく知ってほしい」と強調していました。
講演には、音楽関係者や後藤さんの教え子の皆さんも多数聴講していました。最後に後藤さんの指揮で、「全員で浜辺の歌」を合唱し(動画をダウンロード)、第1回目の講座を終えました。
なお、第2・3回講座は次のとおり開催されます。聴講は無料です。お問い合わせは北秋田市中央公民館(TEL:0186-62-1130)、浜辺の歌音楽館(TEL:0186-72-3014)まで。
公民館講座「先人に学ぶ」第2回
テーマ:『作曲家としての本命はなんであったか』
講師:後藤惣一郎氏
開催日時:平成20年8月25日(月) 午後1時30分〜
公民館講座「先人に学ぶ第3回
テーマ:『浜辺の歌音楽館の役割』
講師:後藤惣一郎氏
開催日時:平成20年9月29日(月) 午後1時30分〜