2009年11月26日
コンテンツ番号5750
鷹農高100周年記念「季節風の彼方に」上映会
県立鷹巣農林高校などで教鞭を執った作家・佐藤鉄章(1914-1991)原作による映画「季節風の彼方に」の上映会が11月26日(木)、市文化会館で行われ、同校の生徒や映画ファンが戦後まもない北秋田地方の山村の現実を描いた映画を鑑賞しました。
上映会は、今年学校創立100周年を迎えた鷹巣農林高校(佐藤英樹校長、生徒数266人)が、教員OBである佐藤鉄章氏の業績を偲ぶとともに、同校ゆかりの映画を地域の人々に見てもらいたいと記念事業として開催したものです。
佐藤鉄章は大館市十二所出身。本名は有次郎。昭和20年代から30年代にかけて鷹巣農林、大館鳳鳴、大館桂各高校の教諭を歴任、その後上京し作家になりました。昭和12年から17年までは今年3月閉校になった竜森小学校で教師を務めています。
鷹巣農林高校には昭和22年から30年まで奉職、この間、教職の傍ら同人誌「北方文芸」「奥羽文学」などを主宰し、文芸活動を展開しています。昭和30年には「季節風の彼方に」を自費出版。後に新潮社から出版され、33年には関川秀雄監督、久我美子、高倉健主演で映画化されました。このほか、主な作品に「召集兵」「若い魂」「砂上遍歴」「ある高校生の冬山遭難」「卑弥呼新考」などがあります。
映画は封切当時、鷹巣では銀座通り商店街にあった「民映」で、大館では仲町にあった東映第一劇場で上映され、大きな話題になりました。今回の上映のためフィルムを探したところ、制作・配給元だった東映本社には存在せず、伝手をたどり、ようやく16mm版として残っていたものを見つけ出したもので、製作から51年ぶりの再上映となりました。
午後からの上映会は、生徒、教職員、一般参観者でほぼ満員。はじめに佐藤校長が、教員時代の佐藤鉄章氏のことや、開催のいきさつなどを説明。続いて生徒会長の嶺脇義和君(3年)が、「映画の原作を書かれた佐藤先生が本校で教鞭を執られていたことは大きな誇り。ぜひ最後まで楽しんでほしい」とあいさつ、映画が始まりました。
ストーリーは、久我美子演ずる主人公・那村文江が、北秋田地方を思わせる戦後間もない頃の「深沢村」で、男性教師との愛に悩みがらもへき地教育に情熱を傾ける姿を通し、貧しく古い因習が残る山村社会の現状を描きます。
スクリーンに山々に囲まれた村の姿や、木造の中学校、蒸気機関車、炭の運搬風景などが現れると、モノクロ映画の懐かしさと相まって、当時を知る人も感慨深く見入っていました。
原作は、鉄章が竜森小や高校教師時代の体験を元に書かれたもので、映画にも鷹巣農林高校がモデルの「米代高校」や当時の国鉄阿仁合線とされる「小田線」、桂瀬駅とされる駅、畠山や橋本といった生徒、「深沢村」など七日市村竜森地区を思わせる地名や人名も多数登場しました。
物語の後半には、営林局の森林主事を招いた中学校の進路指導で、生徒が森林主事に「営林署で仕事をさせてくれるより、国有林を村の財産に戻せないのか」と、質問するシーンがあります。この場面は、明治初期に藩政期以来の分収権を国にはく奪されてしまったため、窮状に陥っていた七日市村が、国有林下戻法で勝訴し、その利益を村の一番の振興となる教育の充実=郡立農林学校(現鷹農高)の設立資金にあてた、という歴史の一端を思い起こさせました。
また、名脇役として知られている鷹巣農林高校OBの俳優・相馬剛三氏も、文江が貧しい家庭環境のために大学進学をあきらめる導入部の職員室のシーンに教師役で登場、後につなげる需要な役どころをこなしていました。
映画を見た同校2年の齋藤雅哉君は、「母校の偉大な先生の作品を見て感動した。子どもたちが炭運びで図書購入の資金を得る場面や、労働基準法などについて尋ねる場面も印象的だった」と感想を述べていました。
また、竜森小、鷹農高で佐藤鉄章氏から教えを受けた清水修智さん(75)は、「先生は、鷹農の校地の一角にあったもとは寄宿舎だった建物に住んでいたが、奥さんと子供5人を抱え、食べることにも苦労していたようだった。部屋には原稿がたくさんあった。映画の場面にあったように、竜森小の子どもたちも小学生の高学年になると家の手伝いで炭運びなども普通にしていたものだ」と、思い出を語っていました。
同校では、4年前の平成17年9月、OBで作家の辻美沙子さん(1934-1999)原作による映画「林檎の花咲く町(昭和37年・東宝作品)」の上映会を開催しており、このときに続く学校ゆかりの映画上映会となりました。
(2009.11.26)