2006年12月09日
コンテンツ番号4807
〜劇団文化座公演「鈴が通る」〜
市文化会館自主事業・劇団文化座(佐々木愛代表)公演「鈴が通る」が9日、市文化会館で行われ、詰めかけた観衆が本格的な新劇の舞台を楽しみました。
劇団文化座は1942年、秋田市出身の演出家・佐佐木隆、女優の鈴木光江らによって結成された劇団。戦時下から演劇の良心の灯をともし続け、日本の現代演劇史に大きな足跡を残す劇作家・三好十郎の「その人を知らず」「炎の人――ゴッホ小伝」、山代巴原作「荷車の歌」、長塚節原作「土」、山崎朋子原作「サンダカン八番娼館」など、底辺に生きる人々に光を当てた作品の上演を続けてきました。
本市出身の直木賞作家・渡辺喜恵子さん(1914-1997)ともゆかりが深く、渡辺さんの作品「啄木の妻」を原作とする同名の舞台も1981年に制作され、俳優座劇場で初演されています。本市では、市文化会館(旧たかのす風土館)が完成した平成3年、渡辺さんの代表作の一つで大正末期から昭和初期の鷹巣を舞台とした作品「みちのく子供風土記」が同会館で上演されていますが、この舞台には、地元のアマチュア劇団や太鼓グループ、子役、エキストラなど多くの市民が関わりました。以降、「なじょすっぺ(H4)」、「マヨイガの妖怪たち(H6)」、「青春デンデケデケデケ(H8)」、「あの人は帰ってこなかった(H14)」と、多くの公演が本市で行われています。
今回の公演「鈴が通る」は、1951(昭和26)年5月ラジオドラマとしてNHKで放送された三好十郎の放送劇を舞台化したもので、2004年に初演されました。「鈴」役で主演された佐々木愛さんは、1943年生まれ。佐佐木隆、鈴木光江を両親に舞台女優として育ち、1978年には「サンダカン八番娼館 」の好子・おさき役で第33回文化庁芸術祭演劇部門優秀賞を受賞、1982年水上勉作、木村光一演出「越後つついし親不知」のおしん役で第17回紀伊國屋演劇賞個人賞受賞するなど、卓越した演技力には定評があります。
ストーリーは、敗戦から5年後の農村を舞台に、戦死したはずの息子がシベリアで生きていたと知り、返してほしいと願う母・そめの行動を中心に展開されます。後家のそめは、普段は農作業や子守りもこなすしっかり者。しかし、毎月26日になると取り付かれたようによそ行きの着物を着、鈴を結わえ付け、村の道を歩いて役場に向かいます。
役場では、担当者も助役も毎月訪れては決まったように「息子に会わせてほしい」「役場でできないのら、一人でシベリアにまで歩いて行く」というそめの願いに大弱り。息子へのそめの強い愛が、人々の心に波紋を呼び起こしますが、役場ではどうにもできない現実を説明しながら、最後にはなだめすかして家に帰すことしかできません。
また、役場への往復の道中では、通せんぼをする少年、戦争で傷つき将来を悲観している青年、夫に会うために子どもを抱いて夜道を空腹のまま歩いてきた女性らと出会います。出会う人々との会話から、戦争によって失われたもの、戦争によっても壊されえないもの滑稽なまでの母の愛が浮かび上がります。
演出は小林裕氏。ステージの中央には、そめが歩く道にもなる回り舞台と、「鈴」が枝に結わえ付けられた木のセットが配置され、時間経過やこの舞台のテーマを間接的に表現します。また、そめの動きに合わせて挿入される鈴の音がそめの心情とともにこの舞台のテーマを象徴的に描き、もともとラジオドラマとして制作された原作の魅力にもあふれていました。初演から4年。母・鈴木光枝の名舞台「おりき」に匹敵する、とも言われる舞台に、演劇ファンらは感動の拍手を送っていました。
終演後の舞台あいさつで佐々木さんは、同じ菩提寺に眠っている父・隆氏と渡辺喜恵子さんとの縁などについて触れながら、「今年は今日が最後の公演。渡辺喜恵子さんともゆかりのある北秋田市で最終日を迎えられてうれしい。これからも良い舞台を作ってまた訪れたい」などと述べていました。
(2006.12.11)