2008年04月25日
コンテンツ番号2434
寺田知事、沿線住民との「内陸線トーク」で
(2008.4.25)
厳しい経営が続いている秋田内陸縦貫鉄道の存続について秋田県知事が沿線住民と意見交換する「知事との『秋田内陸線トーク』」が4月25日(金)、北秋田市と仙北市、内陸線車内で開かれ、県知事が、参加した関係者、地域住民らと同鉄道再生の可能性を探りました。
同鉄道が運行する秋田内陸線の乗車人員は、少子化、過疎化により平成元年の全線開通時の107万8507人をピークに減少を続け、平成15年は毎年60万人を割り込み、18年度では50万194人と半分以下にまで落ち込みました。収支についても、毎年2.5億〜3億円の赤字が発生し、県と市町村が毎年1億円以上を補てんしています。
県や北秋田市、仙北市などで作る秋田内陸線再生支援協議会(会長:岸部市長)では、平成17年に経営建て直しのため、18年度から22年度までの再生計画を策定し利用促進に努めているものの、現在のことろ計画を大きく下回っていることなどから存廃論議が続いています。
こうした状況を踏まえ、寺田県知事は、昨年9月の秋田県議会で運行区間の縮小やダイヤの大幅な見直しなど、鉄道の一部存続に向けた検討を進め、1年以内に方針を決める考えを示していました。その後、今年2月の定例県議会予算特別委員会総括審査で、存廃の判断を示す時期に関して「9月ごろまでには、方向付けを出さざるを得ない」とし、4月から5月にかけ、地域住民などと対話の場を持つこととしていました。
『トーク』は、このような経緯から開かれたもので、午前9時から午後4時にかけて北秋田市交流センター、阿仁山村開発センター、仙北市の角館交流センターの3カ所で、また会場を移動する内陸線車内でも同じように意見交換が行われました。
鷹巣地区会場(市交流センター)で
このうち、市交流センターでのトークには、岸部市長、吉岡興議長、「存続を考える会」や秋田内陸線サポーター、鷹巣阿仁青年会議所のメンバーなど鷹巣地区の住民を中心に約60人が参加しました。
再生支援協議会からの現状説明のあと寺田知事が、「内陸線問題は沿線自治体だけでなく県全体の問題と捉えている。最も大きな課題は、まず第一に地元の住民が利用するという基礎を築けるかということ。また、安全確保の点も心配している。線路や橋梁の改修も早急に行う必要があるが、9億もの対策費がかかる。『9月までに方向付けする』としたのは、もはや時間をかければ妙案が生まれるという段階ではないから。存続するとなると後には戻れない。『ルビコン川をわたるようなもの』と言ってきたのは、相当の決意がいるから。この機会に皆さんと腹を割って対話し、結論を出してゆきたい」とあいさつ。
この後の意見交換では市民から、「観光には不可欠な路線。内陸線を地域振興の一ツールとして活用すべき」「阿仁地区の自治会では、各会長自ら趣意書を手に全戸を対象に回数券セットの購入を依頼するなど具体策に取り組んだ。合川、森吉、鷹巣地区でも取り組んでもらえるよう働きかけたい」などとする意見や具体策が出されました。
寺田知事は、「観光面だけを捉えても『残せ』という気持ちはよくわかる。しかし、赤字補てんに加え、現在19億の基金から安全対策費に9億をあてると基金は尽きる。廃止となった場合を考えると、施設の撤去など清算にさらに20億から30億もの費用が必要だ。こういう現状を考えると、願いだけでは残すことは難しい」と、気持ちとしては残したいもののそれが簡単に許される段階ではないことを説明。
秋田内陸線サポーターからは、「秋田県人はPRがへた。路線名を『北秋田観光鉄道』とするなど全国から注目されるように名称変更を」「全国から寄付を募り沿線に桜を植える」といったアイデアが提案されました。また、他の参加者からは各駅から降りてからの行動を広げる方法として、自転車と一緒に乗り込めるようにする要望も出されました。
これに対して寺田知事は、「自然資源の活用などで、秋田はこれから価値観の出てくる地域だと思っている。名称変更や桜の植樹も歓迎すべき良策。しかし、その前に『基礎的な部分』を満たさないといけない」と、あくまで利用者の増加、赤字解消策など根幹に関わる課題の解決が先決であることを強調。
加えて、「北秋田の人たちには少し苦言となるけれど」と前置きし、「大館能代空港も1.5億の収入に対し、4億から5億の維持軽費がかかっている。県でも赤字だからやめる、という考えではないが、地元に施設を作るときは旗を大きく振るがその後は熱意が足りないのではないか」と、より積極的な努力を求めていました。
最後に吉岡議長が、「内陸線は観光をはじめ地域の産業振興に欠かせないインフラの一つ。地域が生き残るためのツールとしてぜひ存続を考えてほしい」と要望し、鷹巣会場でのトークを締めくくりました。
鷹巣駅から阿仁合駅までの内陸線車内で
意見交換の様子(動画1をダウンロード│動画2をダウンロード )引き続き、寺田知事や各団体の代表者等約30名は鷹巣駅からお座敷列車に乗り込み阿仁合駅まで車窓の景色を楽しみながら意見交換を交換しました。
その中で、秋田内陸線サポータ代表の佐藤和博さんは「車両の清掃や誘客活動、車両と沿線の美しい景色を印刷したポストカードを製作したりしながら、ボランティア活動を展開してきた。鉄道は地域の社会資本として非常に重要。乗客の心と心を繋ぐ路線として守ってもらいたい」などと知事に進言。
寺田知事は「ボランテイア活動を通じてサポートいただき本当にありがたい。存続には行政の責任、会社の経営努力も必要だが、やはり沿線地域の人々の目に見える形での協力が不可欠。観光利用も含めて地域で具体的なシステム作りが必要」と持論を述べました。
乗客として偶然この列車に乗り合わせて、トークに参加した佐京靜子さん(81歳・阿仁銀山)は「足が悪く、毎日内陸線を利用して阿仁合から鷹巣の病院に通っている。私は、自動車の運転もできないし、内陸線が無くなったら本当に困ってしまう。絶対になくさないで」と寺田知事に懇願しました。
また、神奈川県から観光で秋田を訪れ、乗り合わせた女性は「今日初めて内陸線を利用した。先ほどこの鉄道の抱えている問題を聞かされて大変驚きました。沿線には素晴しい観光地も沢山あると伺った。桜の季節も素晴しいが、冬の雪景色も首都圏では味わえないもの、また冬に訪れたい」と内陸線の魅力と印象を述べました。
トークが終了後、寺田知事は車内を回り、乗客に「どうしたら存続できると思いますか、いいアイディアはないですか」と聞き取りしました。乗り合わせた女性は、「小中学校の通学も全部スクールバスに転換されてしまったことも、乗車収入の減少に繋がっているのでは」などと寺田知事に進言していました。
阿仁合駅に到着し、マスコミの取材に対応した寺田知事は「北秋田市と仙北市が強く連携することが必要。内陸線の存続は沿線地域の人たちが活用しないと無理。住民には、日常生活の中で利用するという感覚をもってもらわないといけない。レールの良さを理解してもらうしかない」と話していました。
阿仁地区会場(阿仁山村開発センター)で
阿仁山村開発センター会場では、住民約80名が参加しました。 トークに先立ち、阿仁地域の代表から「内陸線存続に関する陳情書」が知事に手渡され、市の担当者が内陸線の経営状況などを説明したあと、知事が参加者に対し忌憚のない意見を求めました。
参加者からは、「内陸線の運営を若者有志に任せてもらいたい。有志が出資して運営会社を設立してでもがんばってみたいので存続を支援いただきたい」といった積極的な意見や、「人口減少が確実で他からの乗客を増やすしかない。市と会社で目標を定めて取り組んでもらいたい」「赤字が現状以下になれば残してもらえるのか」「市職員が率先して乗車するようにしてもらいたい」「回数券を工夫して利用者を増やしては」などの要望や提言が出されました。
これに対し、知事は「地元の利用、熱意、取り組みが必要。経営状況は数字として甘くないので結論を迫られているが、住民が積極的に利用してはずみをつけ、利用増につながれば存続の可能性がないわけではない」などと述べました。
また、「小学生の通学をなぜバスに切り替えたのか」との質問には、岸部市長が「通学のバス利用は安全対策のためPTAからの要望があったことによるもの」などと説明、理解を求めました。