2008年02月08日
コンテンツ番号5179
県鷹巣阿仁福祉環境部の研修会に市民ら120人が参加
借金の返済、収入の減少、低収入などを借入れの主な理由とする消費者金融などからの借入れを重ね、ついには返せなくなる「多重債務」の諸問題の解決を図ることを目的とした「多重債務問題に関する研修会」が9日、市交流センターで開催され、一般市民や行政関係者らおよそ120人が参加して、弁護士の相談活動などから見た多重債務の現状やその課題等について学びました。
研修会は、秋田県北秋田地域振興局の鷹巣阿仁福祉環境部が主催。全国での自殺率がトップの不名誉な記録が続く秋田県では、その原因別で、「病苦」に次いで第2位となっているのが「生活経済苦」で、自殺原因の約3分の1を占めています。県ではこれまでも、自殺に結びつく様々な問題に対して各種の研修会や相談活動を展開してきましたが、今回のこの催しも、専門家の弁護士の指導を通して、債務者等関係者の悩みの解決の糸口を見出してもらおうと、午前中の個別相談会に続いて行ったものです。
登壇した講師の伊藤崇弁護士は、日本弁護士連合会が弁護士過疎地域での法律相談事業を展開することを目的に開設した「能代ひまわり基金法律事務所」に勤務し、秋田弁護士会会員でもあります。伊藤氏は、自らが携わった昨年7ヶ月間の相談活動の概要を報告し、△事務所での受任(相談を受け、解決策を講じたもの)の状況△債務者が直面する困難△債務整理の現状と課題の3つに分けて講演しました。
まず、受任の内容として、相談者(134人)が一人で抱える借入先の消費者金融等の業者数は5社以下が約5割で最も多く、5〜6社が3割、10社以上が1割となっていて、その最も大きな原因としては、借り入れ1社への利息返済のために次々と業者から借りていく「雪だるま式」の借金に陥り、頭を抱え込んでいる状況であるということを紹介。この過程の中には業者の質が低下していることと、「ヤミ金融」の暗躍等もあって、業者側の過剰な貸付け行為も大きく影響していることを指摘しました。
次に、債務者の直面する困難(課題)については、債務額を200〜500万円とする割合が5割を占めていて、賃金水準の低い秋田県にあっては通常の収入からの返済は無理な状態であることなどを指摘したうえで、このことが原因となって、△過酷な取り立てに精神障害を被る△住居、家業を失う△人間関係(家庭、職場)の破綻と社会的孤立に陥るなど、極めて困難の度合いが高くなっていくことを説明しました。
このような状況の中にあって、弁護士が介する債務整理(解決)について次の3つの方法があることを示しました。
任意(私的)整理〜借金の返済が条件。弁護士などに依頼して業者等との交渉をする
個人再生〜裁判所を通して、債務を圧縮。家財は守れる
自己破産〜裁判所の破産宣告を受け、債務の免除
自己財産は放棄処分 伊藤氏は、「3つの方法いずれにもメリット、デメリットがあるが、多重債務から開放されることに変わりはない。要はどこに自分や家族が「線引き」をするかが肝要で、割り切って 前を見つめることで問題の解決を図ることである」と述べ、借金の非常事態を真正面で対処する気概のもとに、善後策を構ずるために専門家や公的機関への相談を最大限に活用することで「解決」への道が開かれていくことを強調しました。
その一方で、債務整理を進めていく上での問題点と多重債務問題の懸念材料について伊藤氏は、「整理(解決)の影に連帯保証人や名義貸し等の第三者の犠牲が存在する」、「債務を生む社会環境としての無職、低賃金、無計画の生活設計など、根本となっている原因の解決は極めて不安に思う」などと話し、今後においても、債務整理の救済とは別に多重債務に陥りやすい社会構造の状況が続き、債務者の減少には至らないであろう旨を示唆しました。
講演の後、参加者数人から質問が出されましたが、このうち、「相談活動の内容と秋田県の自殺問題を考え合わせた場合、どう思うか」との問いに対し、伊藤氏は、「秋田の人は非常に真面目という印象。その責任感ゆえに思い悩むことにつながって、自殺と言う結果を生むかもしれない。180度転回して、借金という負の財産の限界に達した時点で価値観を変えたらどうか。東京での相談事業を経験した中で、都会の人間はそう対処して(自己破産などを)受け入れて生きているように感じる」と、県民性の違いも影響しているのではないかとの感想を述べていました。
なお、秋田県ではこのほど、「自殺率全国一から自殺予防全国一」を合言葉に全県の25市町村に自殺者予防事業の展開を呼びかけました。昨年実施した「市町村トップセミナー」でも、市町村長が先頭に立って対処すべきと強調していましたが、これを受けて、各市町村では新年度予算にその対策費を計上して本腰を入れることになりそうです。市民サイドにしてみても、身近な市町村段階での相談事業や関係機関等とのネットワークの構築などが受け入れ易いと見られていますので、これまで県が広域圏を対象に実施してきた各種の対策事業を基盤とした意欲的な取組みに期待がかけられます。
(2008.2.8)