2009年01月29日
コンテンツ番号6718
平成20年度雪崩防災シンポジウム
「“伝承と創造”中山間地域の防災と雪国のくらし」をテーマとした平成20年度雪崩防災シンポジウムが市文化会館で開かれ、約500人の参加者が記念講演とパネルディスカッションで雪崩災害の危険と備えについて認識を深めました。
国土交通省と秋田県の主催。近年の地球温暖化の影響による少雪傾向から、恐ろしさを忘れかけつつある雪崩災害への意識や対策の向上を図るとともに、誰もが安心して暮らし続けられる地域づくりを進めることなどを目的として開かれたもので、防災関係者、建設関係の事業者など全国から約500人が参加しました。
開会行事でははじめに、中野泰雄国土交通省砂防部長が、「わが国の2割が豪雪地帯。平成18年の豪雪でも全国で約100件の雪崩が発生し、15人の死者が出ている。雪崩対策を強力に推進し、国民の生命と財産を守るとともに、雪に強いまちづくりを進めたい」との金子一義国土交通大臣のあいさつ文を代読しました。
中山敏夫秋田県建設交通部長による県知事あいさつ代読の後、岸部市長は、「本市でも平成18年の豪雪では、森吉山ダム建設現現場で作業員4人が巻き込まれる雪崩事故が発生した。防災への啓発、普及はきわめて重要。シンポジウムを通し地域防災への認識を高めたい。また北秋田市には、樹氷や温泉、郷土料理など雪国ならではの資源もある。ぜひ楽しんでいってほしい」と歓迎のことばを述べました。
続いて雪崩災害防止功労者表彰が行われ、雪崩防止工法の技術指導や防災教育で地域防災力の向上に努めた国立秋田高専名誉教授の伊藤驍氏など2個人1団体に中野砂防部長から表彰状が贈られました。
シンポジウムでは、秋田県県民栄誉賞を受賞したクライマー小松由佳さんの特別講演、国立秋田高専伊藤驍名誉教授による基調講演、また、伊藤氏や岸部市長がパネリストとして参加したパネルディスカッションが行われました。
最初に登壇した小松さんは、2007年夏に世界第2の高峰・パキスタンのK2(標高8611m)に日本人女性として初めて登頂に成功するなど、世界の高峰に挑み続けている秋田市出身のクライマー。世界でも最も登頂が困難といわれている同峰への挑戦の様子をスライドなどを使って興味深く語りました。
「K2は、多くのクライマーが挑戦し、2割以上の人が生きて戻れない困難な山。傾斜がきつく、這うようにして登る。雪崩や落石も多く、冷蔵庫大の岩も落ちてくる。自然の前では人間は無力。ただ祈るしかなった」と、その厳しさを紹介。
登頂を果たしたときは、「地球が丸いんだということがよくわかった。しかし、下山にも困難はつきまとう。ベースキャンプに到着したときは、仲間と抱き合って喜び合い、生きていることを幸せに感じた」と述べ、「今生きていることはさまざまなめぐり合わせの結果。これからも、自分でできる最高の生き方をしたい」、と登山の様子を披露しながら、登山や生き方についての思いを語りました。
続いて行われた基調講演では、伊藤驍国立秋田高専名誉教授が「秋田の豪雪周期と雪崩災害」と題して講演しました。 伊藤教授は、過去の統計資料をもとに、年ごとの積雪の量などを比較分析し「統計的には、秋田県では11年に一度の割合で豪雪の年がある。暖冬の周期性はないが、豪雪には周期がある」と持論を展開しました。
さらに「豪雪にも積雪パターンがあり、冬期間平均的に積雪がある『停滞型』、徐々に積雪が増える『漸増型』、初期にドカッと積もる『初期大雪型』、1月下旬から2月上旬に積雪が多い『中期大雪型』、分散して積雪がある『分散型』に分類される。県北では停滞型の年が多く、初期大雪型の年が極端に少ない。県南では中期大雪型が多く、停滞型が県北よりも少ない。秋田市は分散型が極端に多く、初期・中期大雪型は少ない」など、秋田県の中でも地域によって雪の積もり方が違うことに着眼。これにより、鷹巣では50センチ、横手では90センチの積雪があると雪崩が起る危険性がある」と県内でも雪の積もり方が違い、雪崩が起る条件も違うことを解説しました。
また「地球の温暖化により、世界的な気温や海面の上昇、海流の変化などで、積雪の仕方も変化している。雪にも、あられや濡れ雪、氷に近い雪など種類がある。それらの積もり方によって、弱い層ができることも雪崩が発生する原因がある。雪の結晶レベルの特性による雪崩との関連性の研究も進められている」と雪崩のメカニズムについても研究が進められていることも紹介しました。
この後のパネルディスカッションでは、秋田魁新報社編集局次長の佐川博之氏をコーディネーターに、伊藤名誉教授、岸部市長、菊池まゆみさん(藤里町社会福祉協議会事務局長)、松橋光雄さん(北秋田市阿仁地区猟友会会長)、中野泰雄国土交通省砂防部長、神居勝康秋田県河川砂防課長の6氏がパネラーやコメンテーターとして豪雪や災害対策について意見を交し合いました。
パネルディスカッションの中で、佐川コーディネーターが「少子高齢化、限界集落、地域コミュニティの崩壊がささやかれている中で、秋田県が防災や減災をめざす地域の課題と対応について、どういう取組が大事か」との問いかけに対して、伊藤名誉教授は「秋田は雪の降る地域環境ですから、雪の積もり方、降り方をしっかり身をもって対応していかなければならないと思う。雪国でありながら雪のことをあまりよく分からない子どもが増えてきている。そういう意味では、雪に対しての防災教育を浸透させて行かなくてはならない。 雪に親しみ、利用し、克服していかないと、防災にはつながらない」などと述べました。
松橋光男さんは「阿仁は雪が多く降る地域ですが、道路の雪は行政が除排雪をしてくれるので、封鎖や孤立などの心配はほとんどありませんが、どか雪が降った時は、自分の家のことも考えながら、隣近所の家のことも考えて、みんなが協力し合い、雪よせをすることが大事」などと述べました。
菊池まゆみさんは、藤里町の北地区について、平成18年豪雪時に社会福祉協議会の呼びかけで実行した地区住民総出の除雪作業をきっかけに、住民はみんなでやれば何でもできるという気持ちが芽生え、新たな活動を生むをきっかけになった事例を上げて「自分のできる形で参加し、また参加のとりまとめも大事なこと」などと述べました。
岸部市長は「北秋田市は非常に面積の広い地域なので、自治会を中心に防災組織をしっかりしなくてはならない。平成19年の豪雨災害時には、国土交通省が実施した防災訓練が私自身とても役立ったことを思うと、訓練はいかに重要であると考えます。そして、私たちの中には、山を熟知している松橋さんのようなマタギの人たちがいるので、山の情報やその経験を防災に活かすことができれば、とてもすばらしいと思います。また、北秋田市には、森吉山をはじめたくさんの観光資源があり、多くの人が観光に訪れる地なので、県や国と協力して防災に努めていきたい」などと述べました。
神居県河川砂防課長は「県では行政の基本的な方針としまして、県民の安心で安全な生活の確保を大きく上げて、雪崩対策の整備を進めていますが、だいぶ遅れ気味なので、国土交通省の支援を頂きながら、積極的に進めていきたい。ハザードマップについては内容を充実させながら、みなさんにご周知していただけるように考えていきたい」などと述べました。
中野国土交通省砂防部長は「菊池さんが言っていた近隣のネットワークは、昔から築いてきた人のつながりがあるということだと思います。そういう良い所を活かして、いざという時にみなさんで助け合いができることは災害防止という観点からも非常に大事です。また、国土交通省では大きな災害に備え、テックフォースという危機管理チームの体制が整っており、秋田県では秋田市と能代市に事務所がありますので、遠慮なく連絡していただき災害では初期的な対応しますのでお使いください」などと述べました。
パネルディスカッションの終わりに、佐川コーディネーターが「雪崩災害は我々の耳に飛び込む機会ことはあまりないけれども、それ以上に雪崩の危険個所が多いことに驚きました。当然ながら行政が対策を講ずる必要性はあると思いますが、行政が受ける部分と、住民が自らの力でやるべき部分があると思います。その中でも住民が自ら立ち上がる部分では、これからの地方分権地方の存在価値を高めていくためにも、これから益々比重が大きくなっていくのではと感じております。そういう意味では、今日の菊池さんの話で非常に勇気をもらった方がいるんじゃないかと思います。阪神大震災の時、被災された方々にアンケートを取ったら、日頃の結びつき日常の結びつきというのが、色々な事に反映されたという結果がでています。そういった視点で考えますと、我々雪国に暮らす人間は、毎日の様に降る雪との格闘、その日々の格闘を通じて、都会の人たちより濃密なコミュニティを強化できる環境にあると感じています。それから、我々は、雪国に暮らす人間の責務として、色々な知識を蓄えなくてはならない。それは伊藤さんがおっしゃっていた雪の特性、あるいは雪崩のメカニズムです。これにマタギの松橋さんがおっしゃっていました、経験と知恵といったものをうまく取り入れ、ミックスしながら雪と上手に付き合っていかなければならないという思いが強くしました。今日取り入れた知識を、ご家族あるいは地域へ持ち寄っていただき、災害へ備え知識を高めるための参考にしていただきたい」と述べました。
(2009.1.29)