Vol.3 祈りは生きていくための心の薬

今回は祈りの道具である土偶にフォーカスしながら、見学するときのポイントなどもお話していきます。

縄文時代に粘土で作られた人形(ヒトガタ)の焼物である土偶は、飾ったりするだけのお人形だったのかといえば、そうではありません。

現在、全国で2万点ほどありますが、縄文人たちの祈りの道具であり、心の拠り所として考えられ、沖縄を除く全国で見つかっています。

ここで少し想像してみましょう。

前回お話したように、医療が発達していない中で病気にかかったとしたら、薬草を飲んでいても不安は募るばかり。食料だっていつも十分にあるとは限らず、いつ飢餓が訪れるかわからない。集落の宝である子どもも、生まれる子の半数が早くに亡くなってしまったり、そもそも子宝に恵まれるのは神のみぞ知る。

となれば、何かにすがりたいと思うのは現代人の私たちからしても納得できる心情です。だって「ここはひとつ、神様お願いします!」と私たちだって神頼みをするのですから。

そう考えるとき、縄文人にとって祈りの道具である土偶は、生きていく上でなくてはならない存在だったと容易に想像できるのです。

伊勢堂岱遺跡でも200点以上見つかって、伊勢堂岱縄文館には周辺の遺跡も含めて土偶ばかりを展示したコーナーがあります。そこに並んだ土偶がとにかくユニークなんです。

どうしてこうなっちゃったの?と思うガチャピンに似た土偶や、

きっと子育て頑張って母乳をあげてきたんだろうなと思わせる垂れた乳房が愛おしい土偶、

たくさん母乳が出るように思いが詰まったと思われる豊かな乳房の土偶など、

見ているこちらも思わずニンマリしてしまう微笑ましいものがいっぱい!

そうそう。

土偶は正面を見ているだけでは魅力の半分しかわかりません。展示の後ろにスペースがあれば、是非とも背中も見てほしい。正面は端正に作られていても背中が雑だったり、その逆もあったり。股の間に穴がある土偶も多く、立体好きな彼らは細部まであれこれ作り込んでいるのです。

そこで、初回にお話ししたお家にいながら土偶を四方八方様々な角度から立体的に見ることができるプロジェクトの登場です!

ああ、早く見たい。縄文人と同じ視線で土偶を見てみたい。

次回は実際に体験したレポートをお届けいたします!

 

譽田亜紀子(こんだあきこ) プロフィール

文筆家。岐阜県生まれ。京都女子大学卒業。奈良県橿原市の観音寺本馬遺跡の土偶との出会いをきっかけに各地の博物館や遺跡を訪ね歩き、土偶そして縄文時代の研究を重ねている。現在は各種メディアを通して土偶や縄文時代の魅力を発信する活動を行う。近著に『かわいい古代』(2021年、光村推古書院)『新版 にっぽん全国土偶手帖』(2021年、世界文化社)他多数。